竹ざるが開いてくれた、
料理の新しい一面。
昔から台所道具としてよく目にしてきた竹ざる。
その存在も用途もわかっていたつもりでしたが、どこか「自分とは縁遠いもの」のように思い込んでいたところがありました。
扱いが難しそう、収納に困りそう、使いこなせる自信がない。そんな先入観から、ずっと手に取らずにきた道具のひとつです。
今回触れてみたのもちょうど欲しかった!という物欲ではなく、いつかやろうとしまいこんでいた”nid”の「干し野菜ライフ」特集(2011年創刊)を改めて読み直したことがきっかけでした。
そこに置かれている言葉の数々には、干し菜そのものの魅力がこれでもかとつまっていて。
野菜が勝手に美味しくなる」「干してからのひと手間で、いつもの料理が数倍美味しくなる」…。 食べることがなにより好きな私にとって、到底無視できない言葉が並んでいたのです。
わくわくしながら試してみると、全てが本当だったんだ!と納得する見事な美味しさ。
そのうえトマトや長茎、大根やエノキなどセミドライでも美味しく食べられるものは1日、完全にドライにするなら大体4日ほど、風通しの良い場所で置くだけで完成と、あっけないほど簡単。
新鮮な野菜には新鮮な良さがあるように、干し菜には、干したからこその旨みと食感があるんです。
特に汁物に使ったときの“だし感”は別格で、干し菜そのものが調味料のように働いてくれるのです。
水の代わりにトマトジュースで戻して煮込んでみたり、豆腐の水切りもせずにそのまま白和えにしてみたり。
卵液やヨーグルト、マリネ液など水以外のもので戻すからこその、味の染み具合や食感の良さを活かした料理も楽しめます。
ずっと作ってきた料理だからこそ、まだこんな表情も持っていたのかと。分かってはいたものの、本当料理って奥が深い…。
干し菜生活が板についてくると、だんだん“干すために買う”から“余りそうな野菜を干す”という流れになってきて、野菜の端や、微妙に余りそうな薬味、ちょっと萎びてきてしまった野菜の救済措置として利用するように。
買ったばかりの「色々試して楽しい」から、自然に手が伸びるような、“日常の手順のひとつ”に定着したような気がします。
なお、干し菜はセミドライは冷蔵庫で保存したほうが安心です。
完全ドライの場合は半年以上持つそうですが、市販のものと違い、干しムラができる可能性があるため、密封容器ではなく通気性のある容器に入れて保存、もしくは冷凍してしまうのがおすすめです。
ここまで干し菜ライフに焦点を当ててきましたが、カゴとして使用したり、食器を乾かしたり、おにぎりやお蕎麦などの料理を置いてみたりと使い方は様々。
実際、ざるそばを作ってみましたが、麺が落ちてしまうような不便さもなく、最後の一本まできれいに食べきれます。
ちなみに100gのそばには、丸盆ざるの7寸がちょうどいいサイズ感でした。
しなやかで、強い。
国産竹ざるの実力。
松野屋の竹ざるは、新潟で採れる真竹や岩手の篠竹といった、国産の良質な素材を使い、すべて熟練の職人による手仕事で仕上げられています。
しっかり厚みのある竹を丁寧に裂き、端まできっちりと詰めて編まれているため、大変丈夫なんです。
素材に使われている真竹や篠竹は、柔らかすぎず固すぎない絶妙な弾力としなやかさがあり、ざるやかごの素材として昔から重宝されてきたもの。
海外製や安価な竹ざると比べると、ひごの厚みや均一性、そもそもの扱いやすさに歴然とした差があります。
さらに、竹細工の魅力のひとつは、年月とともに色が変化していくこと。
編みたての青みがかった若竹色は、やがて落ち着いた飴色に、そして使い続けるほどに深く艶のあるこげ茶色へと育っていきます。
使うことそのものが、
いちばんの手入れです。
竹ざるで一番心配されがちな「カビ問題」ですが、実際にはそれほど気を張る必要はありません。
使い終わったら水洗いして、風通しの良い日陰でしっかり乾かす。それさえ守れば、問題なく使い続けられます。
木のまな板を使っている方なら、ほとんど同じような感覚で手入れしてもらえれば十分です。
洗い方は、たわしなどで水またはぬるま湯でこすればOK。気になる場合はごく少量の中性洗剤も使えますが、竹本来の油分を落としすぎないためには、なるべく控えめに。
木屋の「ささら」などがあると、目地の汚れも落としやすくおすすめです。
そして何よりも大切なのは、“使わない期間をつくらないこと”。
日々の食卓で、少しずつでも気軽に使ってあげることで、竹の風合いもより良く育っていきます。
料理・文:Moe Kuriyama(
@moe__meshi_)
写 真 :Yuto Tenjin
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