放置で美味しく仕上がる
せいろの驚くべき実用性。
せいろというと、その民芸品然とした見た目から「伝統的な道具」や「スローライフ」の象徴のように映るかもしれません。けれど実際のところ、その本質はもっと実用的で、もっと現代的です。端的に、とてつもなく「便利な道具」なのです。
料理における「究極の便利さ」とは何でしょうか。答えは人それぞれありそうですが、「調理中に放置できて、出来上がりが美味しい」ということは間違いなくその一つであると思います。冷凍食品や、自動調理鍋はまさに便利そのものです。
高度化した物流網やテクノロジーが可能にした「便利」に、せいろという古来の道具が肩を並べるとは、正直使ってみるまで思いもよりませんでした。
鍋に水を張り、火をかけ、せいろを載せたらあとは放置。焦げる心配もなければ、吹きこぼれる心配もない。
蒸気に仕事を任せておけば、野菜も肉も魚も冷凍ご飯もふっくらと仕上がる。使ってみると「なぜもっと早く導入しなかったのだろう」と思うほどに、たいへん実用的な道具なのです。
「せいろでできることは電子レンジでもできる」、結果だけを見れば、たしかにそう言えるのかもしれません。けれど、食材の内部で起こっていることはまったく異なります。
せいろは鍋から立ち上る水蒸気を閉じ込め、その蒸気で食材を外側からじっくり温めていきます。そのため素材がもともと持っている水分や油分が逃げにくく、うま味ごと食材がふっくらと仕上がります。
他方で電子レンジは、マイクロ波が食材の水分を直接振動させ、内部から一気に加熱する仕組み。調理時間は圧倒的に早いですが、そのぶん水分が飛びやすく、食材はパサついたり硬くなったりしてしまうこともしばしば。気づかぬうちに味わいの厚みも削がれてしまいます。
これは成分や現象にだけフォーカスした実感の伴わない科学的な話にとどまらず、私たちの味覚でも違いがはっきりとわかります。つまりせいろで蒸した食材は、にやけてしまうほど美味しいのです。
蒸気をしっかりと閉じ込めて
素材の力を引き出す和せいろ。
和せいろ特有の厚みのある木蓋が、せいろ内部に蒸気をしっかり閉じ込めるため、中華せいろと比べて短時間で蒸しあがります。
また、中華せいろよりも身(せいろ本体部分)に高さがあるため、おこわや赤飯などのご飯もの、器ごとせいろに入れる茶碗蒸しなどの料理は和せいろの得意分野です。
一つのせいろにベーグルや野菜、卵、昨晩の残り物などをまとめて入れて蒸しあげれば、ワンプレートならぬ、ワンせいろモーニングのできあがり。
このような使い方ができるのも、高さのある和せいろならではですね。
底のすのこは身と別になっており、外せるというのも和せいろの特徴です。中華せいろの場合は一体型になっています。
せいろを快適に使いこなすために。
せっかくせいろを使い始めるのであれば、ストレスのない環境作りはとにかく大事。
せいろが置ければどんな鍋でもいちおうは使えます。ただしサイズや注ぎ口の有無、取っ手の位置によっては蒸気が漏れてうまく蒸すことができないだけではなく、せいろ自体が焦げてしまう恐れもあるので、やはり専用の鍋を使うのが間違いありません。
山一の専用アルミ鍋は軽くて扱いやすく、水もたっぷり入り、熱伝導も良好。火を止めてもしばらくは素手で触れないほど熱が残りますが、そのぶんお湯が沸くのも早いです。
せいろを複数持ちたい方も、同時に使わないのであればサイズごとに鍋を揃える必要はなく、大きいせいろに合う鍋をひとつ用意しておけば十分。蒸し板を組み合わせることで、どのサイズのせいろでも使えるようになります。
たとえば33cmのアルミ鍋を用意しておけば、33cmの蒸し板を合わせることで、15cmや21cmといった小さなせいろも問題なく置くことができます。
続いては蒸し布。これは赤飯やおこわなどのお米料理も調理するのであれば必須です。
小籠包や豚まんなどの点心は、皮が蒸し布にくっついて破けやすいので、クッキングシートを使用するほうが安心です。
お手入れについて。
新品のせいろは使う前にしっかり水で濡らしてから、食材を入れずに「空蒸し」をして、木の表面を落ち着かせておくと安心です。二回目以降も、使用前に水で濡らすことで焦げ防止になります。
基本的に高温の蒸気で殺菌されているので、毎回ごしごし洗う必要はなく、むしろしっかり洗剤で洗う方が黒ずみやカビの原因になることもあります。油汚れがついてしまった時以外は、濡れ布巾で拭くか、束子で軽くこする程度で十分です。
そして何より大事なのは、使用後は乾いた布で水気を拭き取り、陰干ししてしっかり乾燥させること。
正しいお手入れを心がければ、せいろは長く使える道具です。
写真・文:天神 雄人
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