背伸びを促す、鉄瓶という道具。
水沢姥口は、ちょっとだけ背伸びを促す道具です。
鉄瓶というものが現代社会の暮らしにぴったり沿っているかといえば、正直そうでもありません。 間違いなく一家に一つあって当然、というようなものではないですね。
それでもなぜか、手に取ると少し「よし」と思ってしまう。なんとなく、気持ちが整う方向へ引っ張られる感覚があります。
背伸びすると、自然と背筋が伸びます。
すると姿勢が正されて、なんだか“ちゃんとしてる人”に見えてくる。本当はそんなにちゃんとしていなくても、ちゃんとしてる人として見られているうちにだんだんと「ちゃんと」が体に馴染んできて、気づけばそれが“自然”になっていく。
そんなことって案外あるんじゃないかと思うんです。
いまの時代に鉄瓶を使うということは、ちょっとそれに近い。
最初は重さに戸惑ったり、お手入れに気を遣ったり、どこか落ち着かなさがある。でも、火にかけて、湯気が立って、お茶を淹れて、乾かして。
その一連の流れが、暮らしのなかに少しずつ馴染んでくると、「自分はこういう道具が好きなんだな」という感覚も育ってきます。
すると不思議と、ものの見方や選び方にも少しだけ影響が出てくる。こんなかんじでバタフライエフェクトのような遠回りな縁で、生活や物に対する審美眼のようなサムシングが養われていく気がするのです。
機能的にも優れている鉄瓶のちから。
鉄瓶で沸かしたお湯は、本当にまろやかさが違います。
特に顕著なのが水道水を沸かしたとき。残留塩素が減る、鉄イオンが豊富になる、という検証データ(試験実施機関 一般社団法人 岩手県薬剤師会検査センター食品検査結果書 第12-05411-01号)もしっかり出ています。
ソムリエばりのテイスティングをせずとも、誰しもが「口当たりのやわらかさ」を実感できるので自信をもっておすすめできるのです。
また、美味しいお茶を淹れるためも鉄瓶は欠かせないと言っても過言ではありません。お湯の質がよくなるだけでなく、いい道具を使うとお茶を淹れるという作業も心なしかたのしくなり、普段よりも少し丁寧になるというのもあるかもしれませんね。
錆びるの?錆びないの?
実際に使う上で一番気になるのは、やっぱり「錆びないのか?」ということかもしれません。
結論、鉄なので水気が残っていれば当然錆びます。
でも、使い終わったらお湯を全部捨てて、蓋を開けて、少し置いておけばOK。毎回これをやっておけば、そうそう錆びません。
それでもうっかり赤茶けてきたときは、使い終わった緑茶の葉をお茶パックに詰めて、それを入れた水をぐつぐつ煮ると、けっこう簡単に回復してくれます。あとは自然と湯垢がついてきて、それが内側を守ってくれるようになる。
手がかかるといえばそうだけど、過保護に扱うほどでもない。ちょうどいい距離感の道具です。
写真・文:天神 雄人
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