書き言葉に宿る美を
模様として。
箸を取って「いただきます」。
箸を置いて「ごちそうさま」。
このわずか数センチの道具は、その合間に寄り添う役目をもった存在です。
東屋の「印判箸置き」は、その名のとおり、印判という古い技法で模様が染めつけられています。
印判とは、和紙に呉須で写した図柄を、素焼きの磁器に筆で染めつける方法。
明治期には大量生産の手段として広まりましたが、すべてが手仕事のため、今では貴重な技術となりました。
転写の際に生まれる、わずかなにじみ、かすれ、歪み。
機械では再現できない偶然の痕跡が、滑らかな白い素地と溶け合い、どこか柔らかな印象を生み出しています。
模様のモチーフになっているのは「約物(やくもの)」と呼ばれる記号。
終止符、句読点、飾り罫線…。リズムを生み出すために使われる、いわば“言葉にならない文字”たちです。
この「約物」という概念が日本に根付いたのは、実はここ150年ほどのこと。
活字印刷の発展とともに、意味や感情を文字だけでなく、記号で整える言語になっていきました。
句点ひとつ、飾り罫ひとつで、言葉の流れや印象が変わる。
そんな繊細な感覚が、文章の読みやすさや美しさを形づくるようになったのです。
そんな“言葉にならない文字”たちが、ここでは模様となって主役を飾る存在に。
その姿がごく自然に見えるのは、日本語が「書き言葉そのもの」に美意識を見出してきたから、なのかもしれません。
テキスト:栗山 萌
写 真 :天神 雄人
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